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リトと唯 第五話 小さくたって… 後編

「大丈夫か?」
「うん!」
浴槽で滑らないように、唯を抱っこして湯舟に入るリト
湯舟に戻ってもさっきまでとは違い、二人の距離はずっと縮まっている
唯はなんだかとっても上機嫌だ
そんな唯の様子に、リトはさっき感じた想いをついこぼしてしまう
「やっぱ子供できたらこんな感じなのかなァ」
天井を見ながらしみじみとそう呟くリト
「え…?」
唯は小さな眉を目一杯寄せると、不思議そうな顔をする
「お前と結婚して子供できたら、こんな風に一緒にフロとか入ったりするのかなって思ってさ」
「ケ、ケッコン…」
リトは浴槽にもたれていた体を起こすと、照れくさそうに頬を指で掻いた
「まー、全部オレの妄想なんだけどな…ハハ」
苦笑いを浮かべるリト。けれど唯は、そんなリトをじっと見つめていた
「聞きたい」
「え?」
「もっと聞きたい!つづき聞かせて!」
「続きって……だからオレの妄想だって…」
「聞きたいのっ」
リトをじっと見つめるその小さな目は、どこまでも純粋で真剣だ
「…笑うなよ」
リトは唯から視線をそらすと、小さな声で恥ずかしそうに話す
「今日、小さくなったお前とずっと一緒にいて思ったんだ。もし、お前と結婚して子供できたら、
今日みたいに買い物行ったり、誰とフロ入るとか決めたりするのかなって」
「子供……唯とゆーきくんの子供…」
唯は噛み締めるように何度もそう呟く
「で、そんなコト考えてたら、なんかすげー幸せかなって思ってさ」
「……ゆーきくんとケッコン…」
さっきから一人ぶつぶつと呟いてばかり唯に、リトは半眼で睨む
「ってお前なー…なんか言えよ!こんなコト一人で言ってるオレが恥ずかしいだろ?」
唯は目をぱちぱちさせると、じっとリトの目を見た
「何だよ?」
「唯、ゆーきくんの未来にずっといるの?」
リトを見つめるその目には、不安と期待、驚きと切望とが入り混じっている
「いるの?」
「…当たり前だろ」
少し驚いたように目を丸くしている唯に、リトは微笑んだ
「オレはずっとお前と一緒にいたいって思ってるんだけどな」
「…唯がおばーちゃんになっても?」
「ああ。けど、そん時は、オレもじいちゃんになってるけどな。お前はじいちゃんになったオレと一緒にいたい?」
「そんなコト当たり前でしょっ」
小さな体に精一杯の意思を宿し、唯は力強く応える
「そっか」
にっこり微笑むリト。唯は少し悩むように俯くと、リトの前まで行き、そこで正座した
すると湯舟に顔が浸かってしまい、息をするどころか、溺れてしまう唯
「あ…っぷ…」
「何やってんだよ!?今は小さいんだから気をつけろって!」
リトに起こされながら、唯は何度も咳をする

「ケホケホ…」
「大丈夫かよ?ったく…」
「お湯…すこち飲んだ」
「ええ!?」
びっくりしたリトは、唯を抱っこすると背中をさする
「コホコホ…」
「ほら、楽になったか?」
少し目をうるうるさせながら頷く唯
「お前なァもうちょっと…」
「だって唯、ゆーきくんに大切なお話ちがあるから…」
「大切な話し?」
唯はリトの膝の上で体を捩ると、まっすぐにリトと向き合う
「あ、あのね、ゆーきくん。唯とケッコンするなら一つだけ、約束ちてほちいコトがあるの!」
「約束…?」
「うん」
リトの肩を掴むその小さな手に、キュッと力が入る
「えっと…唯以外のコとハレンチなコトちないでほちいの!」
リトは目を丸くした。それはつまり、浮気をしないで!という事と同じだ
そんな当たり前の事をどうして?と思いながらもリトは口には出せなかった
唯の目が真剣そのものだったから
不安等いろんな感情を宿しながら、それでもリトを見る目は揺るがない
リトはその想いに応えるように、力強く頷く
「わかった。約束するよ」
とたんに輝く唯の笑顔。リトもその笑顔につられるように笑みを浮かべる
「あとね…」
「え?まだあるのか?」
唯はリトの質問を聞いていないのか、どんどん約束の数を増やしていく
「他のコをジロジロ見たりちたらダメだからね!」
「え…あ、ああ」
「唯より他のコのコト、好きなったら許さないんだから!」
「そりゃ当たり前…」
「唯に悲ちい思いさせちゃダメだからね!」
「き、気をつけるよ」
「ゆーきくんは唯より先にいなくなっちゃダメ!唯とずーっとずーっと一緒にいなきゃダメだからね…」
次第に声のトーンが下がっていく
最後のは約束というより、お願いに聞こえた
それもとても大切で切実な想いがこもったお願いに
リトを見つめるその目は少し潤んでいる
「ゼッタイ…ゼッタイ…いなくなっちゃダメだからね…」
リトは唯の頭に手を置くと、やさしく撫でる。何度も何度も
「わかったから…だから泣くなよな」
「だって…ゆーきくん、唯のゆーこと全然聞いてくれない」
「う…」
今日一日の出来事、今までの出来事を思い出し、リトは苦い顔になる
「そ、それは…」
「いっつも怒らちてばかり…いっつも困らせてばかり…いっつも…」
「わわ、悪かったって!だから、そんなに泣くなよな!」
唯は拗ねたように俯くと、頭を撫でるリトの手の間から、その顔を上目遣いで見つめた
リトは相変わらず困った顔をしている
泣いてしまった自分をどうしていいのかわからないみたいだし
うまく言葉が出てこないのか、さっきから目も泳いでいる
(ゆーきくん、カッコ悪い…)
唯は素直にそう思ってしまった
(こーゆー時は、もっとカッコよくいてほちいのになァ)
心の中で、そう愚痴る唯

けれど、やっぱりリトの事が大好きで仕方がないと感じる
今だって胸はドキドキしてるし、顔だってなんだか熱い
ダメだと思うところはあっても嫌いなところなんて一つもない
唯は膝の上でじっとリトの顔を見つめた
(もっと約束…お願いちてもいいのかな…)
唯は目をゴシゴシして、涙を拭く
「あ…あのね、まだ約束ちたいコトがあるの」
「え!?まだあるのかよ?」
リトの反応に一瞬ムッと頬を膨らませる唯
「唯と約束するのいやなの?」
「そ、そーいうワケじゃないんだけど…」
むぅ~っとリトを睨む唯
「わ、悪かったって!もう何でも言ってくれ」
「ちゃんとお願いちないと唯、ゆわないから!」
ふいっと顔を背ける唯。けれど、横目でリトの顔色をチラチラと伺っている
リトはそんな唯の態度に小さく笑うと、その頬に手を当てながら言われた通りにお願いする
「オレ、唯の約束聞きたいな!だから頼むよ、唯」
仕方ないないなァと言った顔でリトに向き直る唯
いつもの様でいて、いつもとは違う唯の仕草全てが新鮮に写る
そんなニコニコと顔をほころばせるリトと違い
唯は今、さっきまでの気丈な態度が嘘のように、体をモジモジさせて小さくなっていた
心なしか頬も赤くなっている
「ん?」
「あ、あのね…」
「うん」
頑張って少しずつ話す唯をじっと見つめるリト
「あの…ね……えっと……い、一日一回は唯のコト、ギューってちてほちいの!ダメ?」
小さな声、それも真っ赤になってもごもごと話す唯にリトはクスっと笑った
「ダメ?」
懇願するように見つめる唯の体をリトはギュッと抱きしめる
「あ…」
「こんな風に?」
リトの胸に中で、真っ赤に染まる唯
(こんな時だけ、唯の気持ちわかるんだから…)
唯は恥ずかしさとうれしさで、リトにしがみ付くようにぴったりくっついて離れない
「他なんかないのか?」
「う、うん。あと…ね」
「うん」
唯は言い難くそうに、リトの肩におでこを乗せてぼそぼそと話す
「えっと、一日一回は、唯のコトす…好きってゆってほちいの」
「一回でいいんだ?」
クスクス笑うリトに、唯は俯いていた顔を上げると、真っ赤になって反論する
「どーちて笑うの!?唯、しんけんなのにっ」
「ゴメン。ゴメン。それから?」
唯は頬を膨らませたままリトから顔をそらしてしまう
「もー!ゆーきくんなんて知らないから!」
「ホントにゴメン。だからこっち向いて」
「さっきも同じコトちたんだから、もー知らないっ」
顔を背けて目も合わせ様としない唯に、リトは悲しそうに溜め息をもらした
「そっか……唯、オレのコト嫌いになったんだな…」
「え!?」
びっくりしてリトに向き直る唯
「ど、どーちて…」
「オレの事、嫌いだからそんな事するんだろ?」
さっきのお返しとばかりに、唯から顔を背けるリト
「そ、そんなコトない!唯、ゆーきくんのコト好きだもん!!」
「ホントに好き?」
「ホントにホント!ウソじゃないの!!ゆーきくんが好き、大好き!!」
手を握り締めながら必死に話す唯の目には少し涙が滲んでいる

「ウソじゃないの…」
ちょっとしたイタズラ心でからかうはずが、唯の一生懸命さに苦い顔になるリト
(ちょっとやりすぎたかな…)
涙声で何度も「ウソじゃない」と繰り返す唯
リトは指でその涙をぬぐっていく
「…ゆーきくん?唯のコト…信じてくれるの?」
「ああ」
リトはゴメンなと言いながら、唯を抱きしめた
唯は目を丸くさせると、その小さな腕で力いっぱいギュッとリトを抱きしめる
しばらく抱き合った後、どちらともなく体を離す二人
唯はほっぺを赤くさせながらも、ニコニコと笑っている
(カワイイ…)
リトは素直にそう思った
そして、小さいながらも本当に自分の事を想ってくれている唯に胸がいっぱいになる
「どーちたの?」
「…何でもないよ。それより約束は?」
体をピクっとさせて言葉に詰まる唯
「他ないのか?」
「…いい…の?約束ちて?だって…」
リトは唯の頬に手を当てると、にっこり微笑んだ
「いいよ!だって大事な事なんだろ?」
唯はコクンと頷く
「じゃあ、エンリョなんかするなよ!オレは全然いいからさ、な?」
「う、うん。じゃあ…」
唯は頬を赤くしたままリトの顔を真正面から見つめる
「…い、一日一回は、唯にちゅーしてほちいの…」
「え…いいのか!?キスしても!?」
「うん…。だって唯、ゆーきくんとちゅーするの好き…だから」
顔を沸騰しそうなほど赤くさせている唯
そんな唯をリトは驚いたように見ていた
(へ~…そうなんだ!?)
今までの事を思い返しても、そんな風に思ってくれている素振りなんかあまり見当たらなかっただけに、リトの驚きも大きい
「ほ、他ないの?キスの他とかさ」
思い切って唯の本音を探ってみる
「ん~他…他……。あ!あのね?えっと……ホントのコトゆってもいい?」
「いいよ」
リトの喉がゴクリと音を立てる
「ホ、ホントは唯……一日一回じゃなくて何回も好きってゆってほちいっ!」
「へ?」
「そ、それから何回もギュッてして、いっぱいちゅーもしてほちいの!」
一息でしゃべった唯は肩で小さく息をしている
「えっと…」
「ダメなの?」
中々返事をしないリトに、唯の目はうるるると滲んでいく
(やっぱ唯は唯だなァ)
心の中でそう苦笑すると、リトは唯の頭に手を置く
「いいよ。何回だってしてやるよ!約束な!」
ぱあっと顔を輝かす唯
「うん。約束!」
満面の笑顔を浮かべる唯に、リトもドキっとしてしまう
(マジでカワイイな…)
「ん?」
うれしさで笑顔が止まらない唯は本当に幸せそうだ
(はぁ~…元に戻ってもこれぐらい甘えたり笑ってくれたら…)
「ゆーきくん?」
「ん?何でもないよ」
不思議そうに見つめてくる唯にリトは愛想笑いを浮かべる

「…でもとりあえず」
「へ?」
リトは唯の体を抱き寄せる
「ゆ、ゆーきくん?」
「キスしよっか?」
「え!?」
みるみる赤くなっていく頬
「ちゅ、ちゅーするの!?唯と?」
「うん。ダメ?」
「ダ、ダメじゃなくて!えっと…えっと…」
どんどん声が下がり、リトの腕の中で小さくなっていく唯
「じゃあ、しよ」
「う…うん」
ギュッと目をつむる唯にリトは口を近づけていく
(おフロでゆーきくんとちゅーなんて、すごくハレンチなコトなのに…)
近づくリトの吐息に唯は顔どころか体まで赤くさせる
(でも…)
リトの肩に置いた小さな手に力が入る
「唯…好きだよ」
「へ!?」
間近で言われた甘い言葉に、唯は一瞬でとろけてしまう
ハレンチだとか、でもとか、そんなモノは一瞬で頭から飛んでいく
「ゆ、唯もゆーきくんが好き!」
だから、がんばってなんとか小さな声で応える事で精一杯
二人は軽く唇を重ねる
「ん…ん」
すぐに離れていくリトを名残惜しそうに見つめる唯
幼いながもその愛情いっぱいな視線にリトは笑みを深くした
「カワイイ」
「カ、カワ…イイ!?」
唯の胸がキュンと締め付けられる
「うん。ちっちゃくなっても唯はすごくカワイイよ!」
目が泳ぎ、リトの顔をまともに見れなくなっていく
「カ、カワイイとかそんなコトゆっちゃダメっ!!」
「え?」
腕の中で真っ赤になりながら慌てる唯にリトはキョトンとなる
(照れてるのか?)
「そんなコト、唯にゆっちゃダメ!だって…だって…」
下を向いて真っ赤になりながらモジモジしている姿に、リトの胸がときめく
(すげーカワイイ…)
リトは唯をギュッと抱きしめた
「ゆ…ゆーきくん!?」
「元のお前も、今のお前もすげーカワイイ!」
「うぅ…ゆーきくんのバカ!ゆっちゃダメってゆってるのにっ」
もう、唯のドキドキは止まらない。さっきから体のいろんなところがキュンキュンして大変な事になっている
「唯…」
「…な、なに?」
「もう一回キスしよ?」
唯は少し悩んだ後、ゆっくりと頷いた
体も心もとろけすぎて、少し息も熱い
そして、再び軽く重なる唇
けれどさっきとは違い、リトの舌が唯の薄い唇を割って入っていく
「ン…んん」
入口でぶつかる熱くざらついたヌメヌメした肉感
その感触に最初驚いた唯も、次第にリトを受け入れていく
吸い上げられていく口内の感触に唯は目を丸くした
(唯のツバ…ゆーきくんの口に入っていってる)
ちゅぱちゅぱと絡み合う唾液の音が風呂場に響く
唾液の交換も、リトの抱擁もみんな唯をとろけさせるには十分過ぎて
お互い体を離した時には、ふらふらになってしまった唯は、そのままリトの胸に顔をうずめた
「大丈夫か?」
「うん。だいじょーぶ。ゆーきくんの口おいちかった」
恥ずかしそうにうれしそうにそう話す唯に、リトも顔をほころばせる
「オレも。唯の口おいしかった」
照れ隠しなのか、リトの体にピッタリくっ付いて離れない唯
リトはその小さな背中に手を置いた
白くてすべすべで、やわらかい
いつもと違う唯の体にリトの興奮も上がっていく
背中に走るくすぐったい感触に体を捩る唯
その仕草が可愛すぎて――――
「なあ唯…」
「なに?」
「もうちょっとしよっか?」
へ?と呆けた顔をする唯。その体にリトの手が伸びる
リトは唯の体を自分から離すと、その体を舐め回すように見つめる
「ゆ、ゆーきくん!?」
「おっぱい吸っていい?」
「そ、そんなコトちたらダメェ」
唯の言葉を無視すると、さくら色をした乳首にリトの舌が這わされる
「は…うぅ…」
ピクンとのけ反る小さな体
その胸に舌を絡めませしゃぶっていくリト
空いている手で、反対の胸への愛撫も忘れない
「や…だァ。ゆーき…くん、こんなコトちたらダ…メなの!」
吸い上げられる乳首に唯の体がピクピクと震える
腋に移る舌の動きに、くすぐったさと気持ちよさで、体が熱くなる
首筋やおヘソの周り、耳たぶ等いろんなところを舐められる度に、唯の口からカワイイ声がこぼれた
「ゆ…ゆーきくん、こんなコトちたらダメ…なのぉ。ゆ、許さないんだから!…っン…ぁ」
(カワイイ…)
リトの行動はますますエスカレートしていく
「ハレンチなコトは…ンっダメなのぉ…だから…」
口ではそう言うが唯は決して抵抗しなかった
小さいながらリトを求めてしまっている体
気持ちよさと背徳感、うれしさとダメだと思う気持ち
その狭間で唯の頭はぼーっとなっていく

「唯…カワイイ」
耳元で囁かれる言葉に真っ赤に染まる頬
「や…だぁ。ダメ…なの!そんなコトゆったら…」
リトの愛撫とうれしい言葉責めで、心臓の鼓動はますます早くなっていく
体はますます熱くなり、汗がぽたぽたと赤く火照った体を滑っていく
「ゆーきくん…唯…唯……」
お湯の熱さと火照った体に目がぐるぐると回りだす
ぐにゃぐにゃに歪むリトの顔
いつしか唯の意識はぼーっと霞んでいき、視界もぼやけていった
「ゆーきくん……唯…もう…ダメ…」
「唯?」
大好きな人の腕の中で、その声を聞きながら、唯はゆっくりと目を閉じていった
それから少しして。リトは自分の部屋の床に寝かせた唯をうちわで扇いでいた
唯は額に汗を浮かべながら、すやすやと眠っている

あの後、急にぐったりした唯を抱えて風呂場を飛び出したリトは、急いで美柑に唯を診せた
『のぼせてるじゃん!』
火照った体を見た美柑は、すぐに、キッチンに走っていった
慌てて戻ってきた美柑の手には、氷水とタオルとうちわ
『リト、あんたはこれで唯さん扇いでて!』
『あ、ああ、わかった』
不安な面持ちでリトは言われたとおりにうちわで扇いでいく
氷水で濡らしたタオルで唯の体を拭いていく美柑
『な、なあ、大丈夫なのか?』
『…まあ、軽くのぼせてるだけだから心配いらいと思うけどさ…リト』
美柑はリトを睨み付けた
『なにやってるのよ!?バカっ!!』
に始まり
『サイテー!信じらんない!妹として恥ずかしいよ!』
と、散々責められたリト
『ちゃんとあんたが責任もって看なさいよ?』

そして今、リトは深い溜め息をこぼした
「オレ、人として終わってるよな…」
確かに唯は彼女で、大切な存在で、だけど今は小さくなっていて
そんな唯に欲情してしまった自分
家に帰ってきた時、リビングで美柑に言われた言葉が浮かぶ
『唯さんは今、体が小さくなって心も子供に戻ってるんだよ?不安なの!怖いの!あんたのコト頼ってるの!』
リトはまた溜め息を吐く
「ホント、オレって情けねー」
そうやって一人落ち込んでいると、タオルケットの下の体がもぞもぞ動く
「ん…んん」
「あ!唯!」
うっすらと目を開ける唯を覗き込むリト
「ここ…どこ?」
「よかった!大丈夫か?どこもしんどくないか?」
唯はぱちぱちと目を瞬く
「ゆーき…くん?」
「ゴメンな唯!オレのせいでしんどい思いさせて…。ちょっと待ってろよ!今、冷たい物持って来るから」
そう言うとリトは急いで部屋を出て行った

その後姿をぼーっと見つめている唯
「そっか…唯、お風呂にはいっててそれで…」
いろいろ思い出しまた頬が赤くなっていく
「おまたせ!とりあえずコレでも飲んで……え?」
息を切らせて部屋に戻ってきたリトを待っていたのは、ムッとした唯の顔
「え、えっと…」
「ゆーきくん、唯ダメってゆったのに!」
リトは苦い顔になる
「ハレンチなコトちたらダメなのっ!!」
ビシっと指を指しながら怒る唯にリトはうな垂れるしかなかった

美柑の使っていたパジャマに着替えた唯は、ベッドに腰掛けながらゴキュゴキュとジュースを飲んでいる
その横では正座したままのリト
「あのさ唯、もう…」
ふいっとそっぽを向いてしまう唯。リトは悲しい溜め息を吐いた
さっきからずっとこんな調子で、唯の機嫌は直りそうにない
なんとか機嫌を良くしようと頭を悩ませていた時、唯は小さく欠伸をした
「唯?」
唯は目に涙を溜めながら、眠そうに目をしょぼしょぼさせている
時刻は夜の9時
いつもならなんともない時間でも、体が小さくなっているとその分、睡魔も早くきてしまうらしい
「もう寝る?」
唯は小さく首をコクンと振る
「じゃあ、オレのベッド使えよ」
「…ゆーきくんは?」
「オレなら今日は床で寝るから気にすんな」
唯はしばらく悩んだ後、ジロっとリトを睨む
「ゆーきくん、唯が寝てる時とかハレンチなコトちたら許さないからね!!」
「わ、わかってるって!」
それでもしばらくじっと睨む唯にリトは悲しくなってくる
(まぁ、当然だよな…)
ぶつぶつ文句を言いながら布団に入る唯に、リトは何回目かになる溜め息を吐いた
「じゃあ電気消すからな?」
「え?」
びっくりして思わずベッドから起き上がる唯
「ど、どーちて!?ゆーきくんは?」
「オレ?オレは下にいるよ。まだ寝ないし」
「そんなのやだっ!」
唯は力いっぱい叫ぶと、ベッドから降りようとする
「ちょ、ちょっと待てって!お前、寝るんじゃなかったのか?」
「ねむいけど、ゆーきくんが一緒じゃないと唯、寝ない!」
今度はリトがびっくりして固まってしまう
「だって、ゆーきくん約束ちてくれたでしょ?唯と一緒にいてくれるって!」
「う、うん」
「約束……守ってくれないの?」
「そー言うワケじゃなくて…」
「また…また…約束守ってくれないの?」
そう呟く唯の目にみるみる涙が溢れ出す
「おフロであんなに約束ちたのにぃ…」
「う、うん」
「ゆーきくんが約束するってゆったのに…ぐす…」
ゴシゴシとパジャマの袖で涙を拭く唯
「あ、あのさ唯、別にオレは…」
「…なのに…ゆーきくんはぜんぜん唯の約束守ってくれない。いっつも約束やぶって唯のコト、イジメル…」
「イジメてるワケじゃ…」
バツが悪そうに頭を掻くリト
「イジメてるの!!唯のゆーこと、ぜんぜん聞いてくれないクセに!唯を怒らせて、唯を泣かちてばかりのクセに!」
小さな糾弾にリトは黙ってしまう

「唯、ゆーきくんのためを思っていっつもいっつも注意とかちてるのに、ゆーきくんはそれも聞いてくれない…」
唯は涙をこぼしながらじっとリトの顔を見つめた
「ゆーきくん、唯のコト、キライなの?」
「え?」
「キライだからゆーこと聞いてくれないの?」
「そんなワケ…」
「じゃあ、どーちて?どーちてゆーこと聞いてくれないの!?」
リトは応えられなかった
唯がいつも自分を想って叱ってくれる事も、今の唯の気持ちもリトはよくわかっている
わかっているけれど、ソレをうまく言葉にできなかった
「ゴメンな唯」
情けないほど小さなリトの言葉に、唯はそっぽを向くとそのまま布団中に入っていった
布団の中ですすり泣く声。その声にリトは何もできなかった

結局、泣き疲れたのか、唯はそのまま布団に包まったまま眠ってしまい
リトはただそばにいる事しかできない自分を情けなく感じつつ布団に入った
そして、時刻は深夜1時過ぎ
ゴソゴソと音を立てながら布団から出る唯
部屋は真っ暗でなんだかいつもより怖く感じる
唯は目を凝らすようにキョロキョロすると、床で寝息を立てているリトを見つけた
(ホントに床で寝たんだ…)
その姿に胸がキュッと締め付けられる
唯は気付かれないように静かにベッドから降りると、そーっとリトに近づく
「ゆーきくん…?」
顔を覗きこんで確認
「起きて…ないの?」
寝息を立てているリトにわかっていても、もう一度確認
「ん~」
唯は口に指を咥えながら少し難しい顔をすると、決心した様にリトの横で正座した
「…ゆーきくん、唯のお話ち聞いて」
眠っているリトに語りかけるように話す唯
「あ、あのね。今日は一日ありがとー。そーじゃなくて……いつもありがとー」
唯はペコリと頭を下げた
「寝る前はあんなコトゆったけど、ホントは唯ちってるんだ
ホントはいつも困らせて、迷惑かけてりゅのは唯のほーだってコト…」
唯は言葉を選ぶようにゆっくりと、一生懸命に語りかける
「だけど唯、いつもいつも怒ってばかりで、ちっともやさちくないよね…
唯の想ってるコト、全然ゆーきくんにゆえてない…」
目にどんどん涙が溢れ出す
「だ、だから、いつも不安でさみちくて……だけど、ちゃんとゆえなくて
だけど、ゆーきくん、いっつも唯のそばにいてくれて…いっつもそばで笑ってくれて…
唯、怒ってばかりで全然やさちくないのに…」
込み上げてくる涙に耐えるように唯は、小さな手をギュッと握り締めた
「唯…唯…ホントは…ホントは…う…うぅ、ひっぐ…」
小さな姿では、我慢も長くは続かない。唯の目から涙がぽろぽろこぼれてくる
「きょ、今日だってホントは一緒に寝た…寝たかったのに、唯ひどいコトゆってゆーきくんを…」
最後の方は言葉にならなかった。込み上げてくる涙と嗚咽で唯は声を上げて泣いた
それでも唯は伝えたい想いを頑張って言葉にする
「唯、唯…ゆーきくんが大好き!大好きなの!!だから、ひっぐ…キライになんてならないで!
う…うぅ…ひっく、キライにならないで!なっちゃやだァ!」
それは叫ぶような必死な懇願
どう言っていいのか、どうしたらいいのかわからない唯の本音
その頭にやさしく手が置かれる

 

「へ?」
「何泣いてるんだよ?唯」
「あ…ゆーきくん起きて…」
いつから起きていたのか、目を覚ましたリトがじっと見つめていた
「ゆ、唯…」
気まずさから、唯は嗚咽をこぼしながら泣くのをやめた
リトにこれ以上、心配かけたくないと思った
目をギュッと瞑って涙を隠す唯
「いいよ」
「へ…」
「我慢しなくていい!泣いたっていい!約束しただろ?もう忘れたのかよ」
そう言いながら唯の鼻を指で突くリトの顔は、どこまでも優しくてあたたかい
「ゆ…ゆーきくん、唯、唯…」
リトは何も言わずに唯を抱き寄せた
「お前が大丈夫になるまでオレがずっとこーしてやる」
「ひ…ぐ…うぅ…ぅうあーん!!」
唯はリトの胸の中で顔をくしゃくしゃにして泣いた

「ひっぐ…ぐす…うぅ…」
「もう大丈夫か?」
ハンカチで涙を拭きながら、唯は首を振った
部屋の明かりは点いていない。「恥ずかちいからつけちゃダメ」との事
二人は真っ暗な中、ぼんやりと映る互いの顔を見つめていた
唯はリトのTシャツを握ったまま離さない
「一緒に寝る?」
暗がりでもわかるほど顔を赤くさせながら唯は頷いた

(ゆーきくんのお布団すごくあったかい…)
布団の中で体を丸める唯
その頭をリトはぽんぽんと撫でる
「んっ」
「小さくなっても唯は唯だな」
クスっと笑うリトに唯は首を傾げる
「どーゆーいみ?」
「ん?小さくても元に戻っても、オレの好きな唯には変わりないってコトだよ」
唯はじっとリトの顔を見つめた
「ゆーきくん、唯のコト好きってゆってくれた…」
「当たり前だろ!何言ってんだよ?」
「ホントに唯が好き?ホントに?」
リトは溜め息を吐く
「あのなー…」
「じゃ、じゃあお願いがあるの!」
「なんだよ?お願いって」
唯はじーっとリトの顔を見る
その顔はいつも以上に、お説教している時よりも真剣だ
(ゆーきくんに唯の気持ちゆわないと、ちゃんと伝えないと…)
唯は小さな手を握り締めた
「あ、あのね。唯をゆーきくんのおよめさんにちて!」
「え?」
「唯、ゆーきくんの赤ちゃんうみたい!おばーちゃんおじーちゃんになっても、ずーっと一緒にいたい!ダメ?」
「ダメってゆーか…その…オレ、前にも言ったんだけど…」
リトの言葉が耳に入らないのか、唯は身を乗り出すようにリトへと顔を近づける
「ダメ?他の約束なんていらないの!唯、ゆーきくんがいれば他いらないの!」
しばらくその顔を見つめた後、リトは唯の鼻をつんと指で突いた

「へっ!?」
「あのなァ、クリスマスの時、オレが言った事もー忘れたのか?」
「え…あ!?」
「来年も再来年もずっとずっとこの先も、お前と一緒にクリスマスしたいって…」
「う、うん!」
「フロ入ってる時も言ったろ?あれ、冗談なんかじゃなくマジなんだけど?」
「うん!!」
お風呂場で見たのよりも、何倍も輝く唯の笑顔に、リトは息を呑んだ
「唯、ゆーきくんのおよめさんになれるんだ!」
「ったく、けど、ホントにいいのか?他の約束はしなくても?」
「そ、それは…」
唯は目を彷徨わせる。しばらくするとぼそぼそと小さな声で呟いた
「え…えっとね。やっぱり他の約束もしてほちい…」
はいはいと笑うリトに唯は頬を膨らませる
「もー、ゆーきくんってどーちて笑うの!?」
「だってお前カワイイもん」
「カ、カワイイ…」
さくらんぼの様に赤くなる唯のほっぺ
うれしさと、照れくささと、恥ずかしさとで頭の中はいっぱいになってしまう
「ダ、ダメなの!唯のそばでそんなコトゆったらダメっ!」
「フロでもそんな事言ってたけどさ、それだと約束守れないんだけど?」
「いいの!ゆっちゃダメなんだからっ」
「ふ~ん…」
じーっと見つめるリトの視線に固まる唯。その目は完全に泳いでいる
「…と、とと、ときどき…だったらゆってもいい…かな」
なんとか頑張って話す唯にリトは笑ってしまう
恥ずかしさを隠すようにリトの胸に顔をうずめる唯
「もー!やっぱりゆーきくんってイジワル」
「そんなつもりじゃないんだけどなァ」
頭を掻きつつも唯の反応に苦笑を隠しきれないリト
「もー!ゆーきくん!!」
「…ゴメン。けど、お前の事カワイイって想う気持ちも好きって気持ちも、冗談なんかじゃないよ」
唯はリトの胸からゆっくりと顔を離す
「お前とずっと一緒にいたいって気持ちもウソじゃない!だから、お前の気持ちがすげーうれしかった」
照れくさそうに頭を掻くリトに、唯の頬も熱くなる
リトと同じように唯もリトの言葉や気持ちがうれしかった
だから、なんとかしてその気持ちを伝えようと唯なりに頑張ってみる
「ゆ、唯…あのね」
「ん?」
「唯、ゆーきくんのためにもっとガンバル!今よりもっとお料理上手になる!もっともっと勉強してえらくなる!
もっともっと勉強してえらくなる!もっともっともっとキレイになってゆーきくんを独り占めする」
唯の心がめいっぱい背伸びをして、伝えようとする
リトへの想いの全てを
「もっともっともっともっといーっぱいガンバッて、ゆーきくんだけの世界で一番のおよめさんになる」
「唯…」
「だからえっと……唯のコトちゃんと見てて。唯のコト離さないで。唯のコトこれからも好きでいてください」
一息で話した唯の息は荒い
鼓動もリトに伝わるほどドキドキと高鳴っている
(ゆーきくんに唯の気持ちちゃんと伝わったかな…)
赤くなっている顔と違い、唯の心の中は不安でいっぱいになっている
もっと良い言葉、伝えなきゃいけないコトがあるんじゃないかという不安
さっきからドキドキが止まらない。興奮した背中はしっとりと汗を掻いている
「あ…あのゆーき…」
何も言わないリトにガマンできなくなった唯が口を開きかけた時
ぐっと引き寄せられた唯はリトに抱きしめられていた
「ゆーき…くん?」
リトは痛いほどに力いっぱい唯の小さな体を抱きしめる
「バカだなお前」
「へ?」
「今でもお前はオレにとったら世界で一番なんだぞ」
「あ…」
リトと唯。二人の体温が一つに溶け合っていく
服越しに互いの心臓の音が伝わり、次第にその音が合わさっていく
トクン、トクンと規則正しく鳴る胸の音に、二人の息遣いが合わさる
「唯、ゆーきくんの一番…」
「なんだよ今頃気付いたか?気付くの遅いって」
リトは唯の前髪を上げると、おでこにキスをした
「ん…くすぐったい」
体を捩るとふいにリトと目が合う
いつもと同じ顔なのに今はとってもカッコ良く見える
(違う…、ホントは唯、いつだってゆーきくんのコト…)
「唯」
リトは唯の背中に腕を回した
間近迫るリトの顔
「お前が好きだ。世界で一番お前が好きだよ」
「あ…唯も…唯もゆーきくんが好き!大好き!」
いつもなら照れくさい言葉も今は不思議と素直に言える
それはきっとリトがそばにいるから
リトが背中を押してくれるから
(唯、ゆーきくんとずっと一緒に、ずーっとそばにいたい)
二人は大きな手と小さな手を重ね合わせると、ゆっくりと目を閉じた
(今日はゆーきくんの夢見れるといいな…)

翌朝、手に伝わるやわらかい肉感と、鼻腔をくすぐるいい匂いに、リトはうっすらと目を開けた
「う…んん、朝?」
昨日はいろいろありすぎて、疲れた体に朝日はとても眩しく感じる
朦朧とする意識の中、ゆっくりと視線を動かすと目の前には唯の姿
そして、はだけたパジャマから覗く、形のいい胸
「あ…!」
リトの意識が一瞬ではっきりとなる
黒くて綺麗な長い髪は昨日と変わらない
けれど、まだ寝息を立てている可愛い唇、くびれたウエストに、白くてやわらかそうな胸
それは普段、毎日見ている唯の姿
「元に戻ったんだ……唯」
隣で一人騒ぐリトに、唯は目を覚ます
「あ…おはよう唯」
「…ん…おはよう結城くん」
まだ半分眠っているのか、目がトロンとなっている唯
「安心しろ!ちゃんと元に戻ってるぞ!」
「え、元…?」
唯はゆっくり体を起こすと、周りをキョロキョロ見渡す
「ここ…」
「何言ってんだよ?オレの部屋だろ」
唯はまだ納得しかないのか、不思議そうな顔をしている
「結城…くんの?」
「そうだよ!大丈夫か?」
少しリトに身を寄せるように体を動かすと、パジャマからぽろりと胸がこぼれた
元に戻ったサイズに小さなパジャマが合うはずもなく、知らぬ間にボタンがみんな取れてしまっていた

「え…」
「よかったー!ホントに元に戻ってる」
はだけた胸に一人感嘆の溜め息を吐くリトをよそに、唯はだんだん状況がわかってきた
やけに小さいサイズのパジャマに、隣にはリトの姿、そしてその顔は今にやけている
唯の目が次第に変わっていく
「…それで、あなたはさっきから何をしてるの?」
「え…?」
一人赤くなっている唯にリトはようやく気付く。自分が今、唯の胸を凝視している事に
「こ、これはその…」
「あなたって人は、朝からよくもこんな…」
冷や汗を浮かべるリトに唯の冷たい声が突き刺さる
「ちょ、ちょっと待ってくれ!これにはワケが…」
「何考えてるのよ!?ハレンチなっ!!」
唯の一撃で窓際まで吹っ飛ぶリト。けれど痛いはずがなんだかうれしい気分になる
(よかった。これは唯だ。ちゃんと元に戻ってる…)
布団で体を隠しながら、真っ赤になって怒っている唯の姿に、安心した様にそう呟くリトだった

「え!?何も覚えてないのか?」
「うん」
朝食を食べ終えたリトは、昨日の事を唯とララ二人に聞いた
「覚えてないって…昨日のコト全部?」
「全然♪」
ララによると、スカンクの影響で小さくなった体が元に戻る時、
なんらかの副作用で一時的に一部の記憶が曖昧になると言うのだ
「よくわからないけど、みんな無事でよかったね♪」
にっこり笑うララにリトは朝からどっと疲れが戻ってきた様に感じた
「オレの苦労って…」
「いいじゃない!ララさんの言うとおり、みんな無事なんだし」
リトの後ろではまださっきの事を怒っているのか、ムッとした唯の姿
「お前も覚えてないのか?昨日のコト全部?」
「…だから、知らないって言ってるじゃない!」
ますます肩を落とすリト。そんなリトに唯は気になる事を聞いてみる
「何か問題でもあるワケ?……ひょっとして、小さくなった私に何かしたとか?」
ドキンと心臓が飛び出るほどびっくりするリト
「そそ、そんなワケねーだろ!オレはただ…」
「ふ~ん…」
振り向いたリトを待っていたのは、まったく信用していない唯の目だった
その視線だけで、リトの心臓は凍えそうだ

だけど、ここで負けるワケにはいかない
だって、昨日はあんなに大切な事を交わしたんだから
「ホ、ホントに覚えてないのか?その…昨日の夜のコトとかさ」
「結城くん、しつこいわよ」
なんだかずっと怒っている様な唯の態度に、リトはそれ以上聞くのをあきらめた
しょんぼりと肩を落とすリト
その姿に、唯は少し複雑な表情になる
小さく溜め息を吐くと、ぼそっと呟いた
「…少しだけなら覚えてるわよ」
「え!?」
「…ぼんやりだけど。昨日、おフロで何か…」
リトは慌てて唯の口を塞ぐ
「それはいい!思い出さなくてもいいから!忘れてくれ!」
「ちょっと!やっぱりあなた何か…」
そんな朝のリビングに、通学用のかばんを持った美柑が戻ってくる
「ま、みんな元に戻ったしイイんじゃないの?それよりさ、このままだと遅刻しちゃうよ?」
びっくりした唯は急いで身なりを整えていく
「と、とにかく!この話しは後でゆっくりしましょ?行くわよ結城くん!」
「おお…」
朝からまるで元気のないリトの手を引いて玄関に向かう唯
「…まったくリトも鈍いね。ま、唯さんもウソつくのヘタだけどさ」
二人の後姿に、クスっと笑う美柑だった

「じゃあいってきま~す」
元気よく外に飛び出すララに続いて、ドアを開けるリト
その手が途中で止まる
「どーしたの?」
「…お前さ……」
「ん?」
前を向いているためリトの表情は見えない
「何よ?」
(…約束は大事だけど、だからする、じゃないよな)
「……なんでもない。それより早くしないと遅刻するぞ?」
「わかってるわよ!服とか整えるから先出てて」
リトは言われたとおりに先に外に出た
「……」
その背中を見ながら唯は、小さく呟く
「覚えてるわよ。全部…」
――あの約束もみんな――
唯は頬を赤くした
「結城くんのお嫁さんにしてって…」
昨日の夜、頑張って言えた素直な気持ち
「一日一回だけじゃなくて、何回もしてほしいって…」
それは、まだまだ言いたい、伝えたい事の一部だけど
――あの約束のコト、結城くんはどう思ってるの?――
唯は期待を胸に秘めながら、リトの後を追いかける
「約束…忘れてたりしたら許さないんだから!」

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