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二人の「勉強会」 その1

6時間目の授業が終わり、一気に開放感が広がる教室内。
帰りのホームルームを前に、仲の良い友人どおしが集まって
今日どうする?
カラオケでも行こーよ
などと楽しげな会話が教室中で展開されている。

ある一角を除いて―――
「結城君!あなたって人は、また授業中居眠りして!!」

声の主は、古手川唯。
もう少しで腰にまで届こうかという長く美しい黒髪。
整った顔立ち、細く長い脚。
美少女揃いと評判の二ーAでもトップクラスの美少女だ。
しかしこのクラスのいったい何人が彼女の美しさに、
いや、かわいさに気づいているのだろう。
つまり唯はクラスの男子からウケが悪いのだ。
曲がったことが大嫌いでな性格で、風紀にうるさいことから
男子は皆唯を避けている節があり、いつも明るく元気なララや
おっとりした西蓮寺春菜を好みのタイプとしてあげることが多い。

そして唯は今日も今日とて男子に向かって怒っていた。
顔をやや紅潮させ、身を乗り出すようにして声をあげているその先で、
怒鳴られ役の結城リトはぐったりと机に突っ伏していた。
「5時間目は耐えたじゃねーかよ・・・」
「何時間目かは関係ないの! だいたい結城君は―――」

一週間前の席替えで隣どおしになって以来、毎日こんな調子だ。
授業中いつも居眠りしてしまうリトを叱る唯。
「・・・居眠りくらい他のやつもしてるだろう?・・・何で俺だけ?」
リトは不満げというよりも、眠くてしょうがないといった様子で弱弱しく言葉を返す。

リトの言い分は、生徒として正しいかどうかは別だが事実ではある。
授業中に寝るものなど一クラスに数人は確実にいるし、
昼食後ともなればその数は増加するのが普通だ。
「そ、それは、あなたがわたしのとなりの席だからよ!」
少し詰まりながら、唯は理不尽極まりない言い分をリトに返す。
ふぁぁ、と大きく一つ欠伸をして、リトはようやく顔を上げ唯に目を向ける。
「そんな顔真っ赤にして怒らなくても・・・」
「な、、何言ってるのよ、結城君!赤くなんてなってないわ///」
ますます頬を染めながら、叫ぶように唯は言う。
寝起きのリトには、そのボリュームはちとキツく、思わず顔をしかめる。
「悪かったよ。これからは寝ないように気をつける」
これ以上怒られるのは遠慮したいし、相手は正しいわけだから素直に降参する。
「分かればいいのよ///」
唯はまだ少し赤い顔をぷいっとリトから背けて、
つぶやくように言うと教室を出て行った。

(やっぱ俺って古手川にとっては未だに問題児なのかなぁ。
最近はだいぶ打ち解けてくれたと思ったのに。ま、オレがわるいんだけどさ)
また怒られてやんのー、とからかいに来た猿山を華麗にスルーしつつ
リトはぼんやりとそんなことを考えていた。

一方唯はというと、教室を出たものの特に行くべき場所があるわけではない。
階段の踊り場で手すりに軽く寄りかかり、ハァ、と物憂げなため息を一つ。
(またやっちゃった・・・)
誰が見ているわけではないが、バツの悪い表情になってしまう。
「何で俺だけ?」
リトのその問いに、唯は無理矢理な答えを返すしかなかった。
実際、リト以外のクラスメートだったら、小声で注意くらいはするだろうが
あんな風に毎日大きな声をあげたりはしないだろう。
ましてや、リトは漫画家である父親の手伝いが
忙しいのであろうことも察しがついているのに。
そして、どうして怒ってしまうのか自分ではわかっていなかった。
(わけがわからないわ。これって一体何なのかしら///)

唯はリトと隣の席になってからのこの一週間、
自身の心の異変に動揺しっぱなしなのだった。

リトを見るたびにドキドキする―――。

出会った頃は風紀を乱すものとして、嫌悪感すら抱いていたのに。
その後時間を共有する機会も多くあり、少なくともリトが
風紀を乱そうと思って乱しているわけではないことは理解した。
そしてリトが、とても優しい男の子だということも。
一緒にいると怒ってばかりだけれど、怒った後にはいつも
なんとなく嬉しいような、優しいような気持ちになることも。
「結城君か・・・」
唇に人差し指を当て、足元を見つめながら唯は無意識に呟いた。
「リトがどうかしたのー??」
ビクッと体が震えてしまう。
見ると授業終了と同時に自動販売機へと向かったらしいララ、春菜等
リトを除くお馴染みのメンバーたちが階段の上ってくるところだった。
「べ、べつに何でもないわ///」
唯は意識して不機嫌そうな声を出す。
「さてはまた結城と喧嘩したなー」とリオ。
「喧嘩って言うより、一方的だけどね」とミサ。
「あはは・・・」いつものように苦笑の春菜。
「ゆいー、リトのことあんまり怒らないであげてね。
お父さんの手伝いでつかれてるんだよ」
「それは結城君次第よ。さ、ホームルームの時間よ」
「あ、待ってよー」
スタスタと足早に歩いていく唯を小走りに追いかけるララたち。
(きっとこれは一時の気の迷いなんだわ。結城君なんて、ハレンチだし///)
唯が自分の気持ちに気づくことになるのはもう少し先の話―――

席替えから1カ月が過ぎ、期末テストが1週間後に迫ってきている。
4時間目の教室では数学の授業が展開されている。
それまでロクに授業を聞いていなかった者たちが耳を傾け始め、
諦めている者、テストなどどうでもいい者は寝てしまうので、
授業中の生徒間の話し声が極端に少なくなっている。

リトはと言えば、ようやく父親の手伝いが一段落したところだが、
一難去ってまた一難とはこのことだ。

(ぜんっぜん分からん・・・)
リトの顔を絵にしたなら、目は細められ
顔の右半分には縦線が数本入っていることだろう。
(いつもギリギリで赤は逃れてきたけど、今回はヤバイかも・・・)

もともとリトはそんなに出来がいい方ではない。
しかも今回に関しては、授業中は常に睡魔との闘いだったのでほとんど理解していないのだ。
眠気を誤魔化そうと思いノートを取ったりもしたが今改めてみてみると、
そこには文字として成立していない物体が描かれているだけだった。

リトは今更ノートを取るのも馬鹿らしくなってぼんやりと窓側へと視線を向ける。
視界に入ってくるのは小さな顔、そして艶やかな黒髪。

超真面目型の隣人、古手川唯である。
涼しげではあるが真剣な表情で前方をまっすぐに見つめている唯の横顔に、
リトの心臓が一段ギアをあげる。
(って、何ドキドキしてんだ、俺は///)
リトは目線を逸らし自分でツッコミを入れるが、そうなってしまうのも無理はない。
唯の横顔はまるで彫刻のように美しかったのだから。

数分の後、ようやく呼吸が収まった頃だ。
授業は終盤に差し掛かっていた。
隣でカチャカチャと音がするのでどうしたのかと見てみると、
唯は筆箱の中に手を入れて何かを探しているようだ。
(おかしいな。お家に置いてきちゃったのかしら)
唯はわずかに眉を寄せ、少し困ったような表情になっている。
探しているのは消しゴムだ。
唯は一般的に筆箱と言われる物を、2種類持ち歩いている。
1つはワインカラーの小型のファスナーペンケースで、
シャープペン、赤ボールペン等必要最低限のもののみが入っており、唯は学校ではこれを主に使っている。
そして今ゴソゴソとしているのはもう1つのほうで、ポーチのような大きめの筆箱だ。
こちらには筆記具だけでなく、ホッチキスやセロテープなども常備している。
色は薄ピンクで、白や黄色の花びらがところどころに散らされた、シンプルながら可愛らしいデザインだ。

唯はいつものようにノートの書き間違えを修正しようとして
小さいほうへ手を伸ばしたのだが、見つからない。
どうやら3時間目に音楽室に移動した際においてきてしまったらしい。
しかし普段唯は2つの筆箱それぞれに消しゴムを保管している。
そこで今度は大きいほうを探してみたのだが、またしても見つからない。
(昨夜お家で使った後戻すのを忘れたのね。減点だわ)
ちなみに唯が日頃から予習復習を欠かさないのは言うまでもない。
仕方がないので後で修正するかと思ったそのとき、
スッと横から手が差し出された。
掌の上には消しゴムと一枚の紙切れ。
紙切れには一言、”使えよ”と書かれていた。

リトがわざわざ口に出さず、紙に書いたのにはいくつか理由がある。
1つは数学教師が厳しいためで、テスト前ともなれば輪をかけて、である。
2つめは口に出したら唯は素直に受け入れてくれないような気がしたから。
それで言い合いになってしまわないとも限らない。
リトは自身が怒られるのは構わないが、
もし唯まで怒られることになったらそれは本意ではない。
3つめは・・・、もういいか。話を進めよう。

唯はキョトンとした表情でそれらを受け取る。
視界に飛び込んでくるリトの文字。
決して達筆ではないし、飾り気のないわずか3文字ではあるが、
どことなく優しさが滲み出ているように感じてしまう。
唯の顔にゆっくりと赤みがさした。
唯はリトが隣にいることに少しずつ慣れてきて、
席替えをした直後のようにどうしようもなく取り乱してしまうことはなくなった。
それでも席替えする以前と同じようにリトを度々叱っているし、
たまに見せられるリトの優しさを、素直に受け入れられないままだ。

でも今は、リトの厚意を素直に受け入れることができそうな気がした。
言葉ではなく、文字でのやりとりでなら。
唯は借りた消しゴムを使うのも忘れて、少しあわててメモ帳を鞄から取り出すと、
一枚ちぎって書き始める。
”ありがとう”
と、こちらも短くシンプルに、しかしできるだけ心を込めてそう記し、
先生が黒板を向いた隙にリトの机の上へとそれを送る。
リトはそれを読み終えると、自分の予想通りだったこともあり、小さく心の中で笑った。
そしてもう授業に集中しているであろう唯の方へと視線を向けると、
唯はリトの反応が気になるのか、手元も動かさずにチラチラとこちらの様子を伺っている。
そんな唯に対して、リトはニカッと満面の笑みを見せる。

ドキッ。
一瞬、息が止まってしまう。
唯はリトのこの笑顔に弱いのだ。
狙ってやっているのではなく、本人は無意識なのが余計にタチが悪い。
チラ見だったから良かったものの、
直撃をくらっていたらお弁当が口に入らなくなっていたかもしれない。

一方リトはというと、鈍感な自分でも分かるくらいに
顔を真っ赤にした唯を見て、思わずにやついてしまう。
するとリトの机に2枚目の紙切れが飛んできた。
”何笑ってるのよ”
リトは唯の横書きの小さな文字のすぐ下に書き記す。
”古手川がよろこんでくれたのがうれしくてさ”
いつもなら怒ってしまいそうな言葉も、今はなぜか自然に受け止められた。
3枚目のメモ書き。
”何かお礼をするわ”
これは素直になるとかではなく、単に唯がデフォルトで善人なだけかもしれない。
”いいって、そんなの。たかか消しゴムで”
そしてデフォルト善人がもう一人。
普通唯ほどの美少女からのお礼なら、何も考えずに貰うだろうが!
”お礼するわ”
”いいってば”
”お礼する!”
”いいっての!”
”する!”
”いらない!”
メモの裏面へと攻防が移ったところで、唯はリトをキッと睨み付ける。
もちろん本気で怒っているわけではないが、
その顔には「私は絶対折れない」と書いてあった。
こうなると結局はリトが折れるわけで。
敗北を認めるかのようなため息がリトの口から漏れた。

するとその直後だ。
”何してほしいかいいなさい”
唯はメモを渡すとリトを無視するようにそっぽを向く。
一方、受け取ったリトは・・・。
(おいおい、これだと何でもしてくれるみたいじゃねーかよ)
リトの妄想タイムの始まりである。
(もしかしたらあんなことも・・・、こんなことも・・・///)
前髪を指先でいじりながら、リトの妄想は飛躍していく。
(って、こんなことしたら「ハレンチな!!」てぶっ飛ばされるっての!)
妄想タイム終了ーーー。

(やれやれ、古手川のやつ、たかが消しゴム借りたくらいでお礼なんて・・・。
ナチュラルでいい奴すぎるんだよなー)
自分のことは棚に上げてリトはそんなことを考える。
いや、リトの場合そもそも自覚していないので棚に上げるというのも変なのか。
(古手川に頼み・・・。古手川が凄いこと・・・)
そのとき、リトの頭上に豆電球マークが現れた。
(あるじゃん。絶好の頼みごとが!)
リトは唯に頼みごとを添えて紙切れを返す。
唯はそれを、期待と不安が入り混じったような表情で受け取る。
”勉強教えてくれ。今日の放課後から、図書室で”
ようやく元に戻りつつあった唯の顔色があっという間に染まっていく。
(それって結城君と二人っきりで!?今日からっていつまで!?
だいたい私、誰かに教えてことなんてないし・・・///)
予想外のお願いに、唯は完全に混乱している。
リトの方へと視線を向けると、その両の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。
リトの口元が「ダメか?」と動いた。

キーンコーンカーンカーン

そのとき授業終了のチャイムが鳴った。
唯は無言で席を立つと、
リトの横を少し過ぎたところで立ち止まり、小さく言った。
「ビシビシいくからね!結城君///」

こうして二人だけの勉強会が始まることとなった―――
「それじゃあ、風邪など引かないよう気をつけてください」
骨川先生の言葉でホームルームが終了する。

「リトー、かえろー!!」

効果音をつけるなら間違いなくピョーンだ、
といった感じでララが飛び跳ねながらやってきた。
その瞬間、自分が声を掛けられた訳ではないのに唯の体がビクッと震える。
そう、この後には一大イベント(?)が控えている。
リトとの勉強会が。
しかし勉強会といっても決まっているのは日時が今日で、場所が図書室ということだけ。
となると、ここでのリトの反応は唯にとってとても気になることなのだ。

5時間目も6時間目も唯は放課後のことで頭がいっぱいで、
先生に指された際も周囲から多数の視線を向けられて初めて気づく有様だった。
だから唯は、リトに背を向けて教科書やノートを机から鞄の中へと移す作業をしながらも、
しっかりと耳に意識を集中させていた。

リトはというと、少し困ったような笑顔を浮かべてララに返答する。
「わり、今日はちょっと残ってくから。先に帰ってくれ」

リトの言葉を聞いて、唯の両手が無意識にキュッと握り締められた。
一方ララはキョトンとした表情だ。
リトが放課後学校に残るなんて滅多にあることではないから、当然といえば当然の反応である。
「えっ、何でー?」
リトは目線を合わせず、頬をポリポリとかきながら言葉を返す。
「ちょっと勉強していこうかと思ってな」
「リトが勉強ー??」
ララはもともと大きな瞳をさらに見開き、心底驚いたという表情をする。
「そこまで驚かんでも・・・」
リトは苦笑する。
(だいたい俺がますます勉強しなくなったのはララが現れてからなんだがな・・・)
リトがそんなことを考えているとは知らないララ。
「でも、勉強だったら家に帰ってからでもできるじゃない」
「うっ」
痛いところを突かれた。

そもそもリトが図書室を指定したのは、静かに勉強ができそうだという理由からである。
家に帰ればララがパタパタと動き回って騒ぎに巻き込まれ、
それを美柑にからかわれることになる可能性が非常に高い。
何せ結城家の「トラブル率」は半端ではないのだ。
が、本人を前にしてそんなことは言えないので言葉に詰まってしまう。
「それに、勉強だったらわたしが教えてあげるよ♪」
とララは明るく言って、満開の花のような笑顔を見せる。
そんな二人のやりとりに、嬉しさで握り締められたはずの唯の両手はワナワナと震え始めていた。
(結城君ったら、自分から頼んできたくせに!結局ララさんの方がいいの?)
確かに勉強を教えてくれと頼んだのはリトだが、
元をただせば唯が何でもしてほしいことを言えと言ったからこうなったのだ。
しかし今の唯には順序だててそんなことを考えることはできない。
(どうして好きな人にそんなに自然な笑顔を見せられるの?)
(結城君は困ってるはずなのに、どうして少し嬉しそうなの?)
唯の胸の中には焼け付くような感情が渦巻いているから。
初めて感じる、いや、初めてしっかりと自覚する、強烈な嫉妬心―――。
唯の感情は今にも爆発しそうだった。
一刻も早くこの場を去りたい。
鞄に手を伸ばそうとしたとき、リトの言葉が聞こえた。
「実は一緒に勉強しようって友達と約束してるんだよ」
伸ばしかけた手がピタリと止まり、ハッとした表情でリトのほうを振り向いてしまう。
リトは目を泳がせていたが、その意識はララではなく、そして唯でもない別の誰かを探していた。

(西蓮寺さん・・・か)
唯の表情が曇る。
胸を小さい針で断続的に刺されているような感覚。
リトとララの会話は続く。
「友達って?」
興味津々、というよりもやや訝しげにララは聞いてくる。
リトの男友達に勉強熱心な者などいない。
春菜の姿はすでに教室にはなかった。
いつの間にかリトの表情がややホッとしたものになっていることに、唯は気づいていた。
「と、友達は友達だよ。それより早く帰らないと、お気に入りのアニメはじまっちまうぞ?」
苦し紛れな言い訳だったが、ララには効果覿面だった。
「あっ、そうだったーー!!じゃあ今日は先に帰るね」
言うやいなやあっという間に遠ざかっていくララの背中を、
リトは安堵と苦笑の混ざったため息とともに見送った。
(ふう、何とかなったな)

いつの間にか教室にいる人はまばらになっている。
っていうか皆、掃除はどうしたよ・・・
ま、いいや、勉強勉強。リトは気合を入れてから、唯へと声を掛ける。
「古手川、行こうぜ」
「・・・・・・」

反応が返ってこない。
「古手川?」
唯は無言のまま教室を出て行ってしまう。
ポツン、と取り残されるリト。

(俺、また何かやらかしたのか?)
フリーズするリト。
もはや呆れるのを通り越すほどの鈍さだ。
こと恋愛において、リトに対して遠まわしな表現は無意味といえるだろう。

しばらくすると、教室を出て行った唯がドアのところからこっちを睨んでいる。
(早くしろってことなのか?)
リトが慌てて教室を出ると、唯は後ろ手に鞄を持ちスタスタと先を歩いていく。
二人の距離は1メートルほどだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

全く会話のないまま図書室へと到着してしまう。
しかしリトは内心ホッとしていた。
(このまま帰っちゃうのかと思ったけど、勉強見てもらえるみたいだ)

二人は図書室へと入っていく。
図書室内にはほとんど生徒の姿はなかった。
リトは普段図書室に全くといっていいほど来ないためいつもより多いのか少ないのかよく分からないが、
テスト前の図書室は想像していたよりもずっと閑散としていた。

リトがキョロキョロしている間に、唯は司書さんと一言二言言葉を交わすと、
なにかを受け取って戻ってきた。
その表情はまだ不機嫌なままだ。
リトにはその原因がさっぱり分からない。
「・・・行くわよ」
「行くって、どこに?」
問いには答えず、唯はまた先を歩き出す。
無視されているにもかかわらず、リトは律儀に唯と1メートルの距離を保って後を追う。
二人は図書室の中を真っ直ぐに最奥まで進むと右に曲がる。
その先にはパッと見ではサウナのような、木でできた扉つきの小部屋が合った。
ちょうど目線の高さに「学習室」の文字。
唯が先程司書と話していたのは、この部屋を借りる手続きについてのことだったのだろう。

唯が開錠してドアを開け、二人はリト、唯の順に部屋に入る。
部屋の広さは3畳ほどだろうか。
中央に大きめのテーブルがあり、
4人分の椅子が2脚ずつ向かい合わせで置かれている他には何もない。
「こんなところがあったんだ・・・」
リトはもちろん、この部屋に来るのは初めてだ。
部屋を見回した後、入り口から一番近い椅子に座る。
唯はリトの反対側へと回ると、リトの正面の椅子を引いた後何かを思い出したかのように
それを元に戻し、不機嫌さを見せ付けるようにしてその隣の椅子に陣取った。

(わたしは今、怒ってるの!だから簡単に甘い態度なんてとらないんだから!)

二人は対角に位置した状態である。
「あの・・・、古手川・・・?」
「・・・なに?」
唯はリトの方を見ようともしないが、とりあえず反応はしてくれた。
「なんで斜めに座るの?」
「・・・関係ないでしょ。結城君には」
「・・・怒ってる?」
ここで久しぶりに唯はリトに視線を向ける。
若干頬を膨らませている様子が可愛らしいが、そんなことを言ったら本当に帰ってしまいかねない。
「・・・何によ?///」
「いや、俺が聞いてるんだけど・・・」
再び訪れる沈黙の時間。
リトとしては唯がなぜ怒っているのか皆目見当がつかない。
(ララと話して待たせたからか?でも時間なんて約束してなかったしなぁ)
唯は確かに怒ってはいたが、、何に対して怒っているのかよく分からなくなっていた。
原因は、嫉妬。
もしリトがララと勉強すると言い出していたら、
その怒りを胸いっぱいに抱えたまま、唯は教室を飛び出していただろう。
でも、リトは唯と勉強することを選んでくれた。
それも、ララを家に帰して、二人っきりでだ。
唯にはそれが、ものすごく嬉しかった。
それこそ、その直前までの怒りなど全て吹き飛んでしまうほどに。
もしリトが、ララか自分かどちらかを選ばざるをえない状況になったら、
自分を選んでくれるなどとは考えたこともなかった。

自分にはないものをたくさん持っているララ。
明るくて素直で可愛くて、プロポーションもよくって。
何よりリトへの「好き」という気持ちが滲み出ている。
自分はあんなふうに甘えたり、抱きついたりはできない。

口先では嫌がっていても、結城君だって嬉しいんだろうな。
ララさんのこと、好きなんだろうな。
そんな気持ちがあったから。

今まで誰にも、自分自身にさえ知られることのなかった、唯の心の中のフィルタ。
大きな「意地っ張り」を包んだフィルタ。
それに、小さいが確かに穴が開くほどに、リトが自分を選んでくれて嬉しかった。
それなのに、唯はやっぱり素直になれない。

あの時、ララ以上にリトが意識していたのは、きっと春菜。
春菜を見るリトの表情は、他の誰かを見るときとどこか違っているような気がしていた。
自分とも、ララとも。

春菜には、なぜか自分と同じものを感じていた。
リトへの気持ちを自覚した今なら、それがはっきりとわかる。
必死になってリトへの気持ちを抑えているような、
それでいてどこかで諦めきれずにいるような、そんな態度。

ララと春菜の存在が、唯の前の大きく立ちはだかっていた。
そして唯には、もう一つ引っかかっていることがあった。
(友達って言った・・・)

リトは自分を友達だと、そう言った。
とっさに出た言葉かもしれない。
そもそも、唯とリトは付き合っているわけではないし、
数ヶ月前までの唯ならリトから友達といわれたら怒って否定していたかもしれない。
この1ヶ月で二人の仲はグッと縮まったが、決して妖しい雰囲気にならないようにセーブしてきたのは唯の方だ。
それなのに今は、友達といわれたことを180度違う意味で怒っている自分がいる。
自覚してしまった、強烈な嫉妬心。
笑顔を見るたびに、言葉を交わすたびに、飛び跳ねる心臓。
一方的に無視され、理不尽な扱いを受けてきた今でさえも、
唯を心配そうに見つめている、どこまでも優しいリト。
(わたしは、結城君が、好き・・・)
もはや自分がリトに恋をしていることを認めないわけにはいかなかった。
だから・・・。
(わたしが怒っているのは、身勝手なわたし)
今まで必死になってリトへの想いを否定してきたのに、好きだと認めざるを得なくなったとたん、
自分を好きになってほしいと思う、自分だけを見てほしいと思ってしまう、身勝手なわたし。
結城君は何も悪くないのに、今この瞬間も結城君を困らせ、心配させている、意地っ張りなわたし。
時計すらないので、秒針の音すらしない学習室。
沈黙が耐え難いという思いは、時間の経過とともに少しずつ和らいでいってはいたが、
リトはやや沈痛な面持ちでぼんやりと唯の鞄を眺めていた。
「でも、しょうがないじゃない・・・」
(そんな簡単に、素直になんかなれないわよ・・・)

「えっ!?」
唐突に発せられた唯の言葉にリトはビックリしてしまう。
落としていた視線を唯に向け、リトは唯の言葉を待つ。

二人の静かな吐息だけが部屋を満たしていった。

その沈黙は1分だけだったような気もするし、5分はたっていたような気もする。

唯は何かを決意するかのように数秒瞳を閉じた後、その小さな唇で言葉を紡いだ。
「結城君は、こんなわたしでも・・・、ホントにいいの・・・?///」
瞳を潤ませ、顔は15度ほどうつむき加減で、上目遣いで。
いつもの強気な唯からは想像もできないようなか弱い表情で、
唯はじっと、リトを見つめてきく。
「な、なな、何言ってんだよ/// 古手川頭いいし、面倒見いいし、字もキレイだし、
えっと、その・・・とにかく、絶対教えるのうまいよ、う、うん///」

(か、かわいい///何だかわけわかんないけど、めちゃくちゃかわいい・・・///)
リトは照れと戸惑いとで顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
その様子を見て唯はクスッと笑みを漏らすと、顔を上げた。
いつものように凛とした表情。
だけど少しだけそれは柔らかい。
「結城君、第一問は不正解ね」
「へ?」
リトは何が何だか分からない。
「不正解ってどういうことだよ?」
「質問に適切に答えられてないんだから、不正解に決まってるでしょ♪」

さっきまでの不機嫌さが嘘のように消え、唯はどこか楽しそうだ。
「さ、始めましょ。まずはテスト初日の国語からでいいわよね」
あっけにとられているリトをよそに、唯はテキパキと準備を進める。
まだ完全に吹っ切れたわけではない。
家に帰れば、切ない気持ちに悩まされることになるだろう。
でも。

唯の、二人の「勉強会」は、これから始まるのだ。

 

(ホントの答え、いつか聞かせてね・・・結城君・・・)
唯はリトに聞こえないように、そっと呟いた。

「はぁ・・・何でこんなめんどくさいことやってんだろうな・・・」
リトは苦笑とともにため息を吐きながら、校門を通り抜ける。

何も1日の始まりである朝から、こんなことを言っているわけではない。
現在の時刻は午後4時20分。
夕日のオレンジが校舎一面を照らす中、テスト前期間のため誰一人として存在しないグラウンドを一人歩く。
向かう先は図書室―――――唯との勉強会だ。

唯との勉強会をめんどくさいとは何事だ、と唯ファンからの怒りの声が飛んできそうだが、
リトは勉強するのが嫌なわけでも、唯の教え方に不満があるわけでもない。
むしろリトは勉強が楽しくなってきてすらいるのだ。

質問をすると、唯は丁寧かつ的確にそれに答えてくれる。
さらに補足として様々な豆知識を、リトの頭脳がパンクしない程度に教えてくれるのだ。
そのうえで次に解くべき問題を指示し、考えさせるときはじっくりと考えさせる。
天才肌でどこか感覚的なララとは違う、勉強が嫌にならないように少しずつ引き込んでいくような教え方だ。
ビシビシいくと言われていたからには多少の罵声や叱責を覚悟していたリトだったが、
実際に教えてくれる唯は「面倒見の良い姉とはかくや」といった感じで、
実に穏やかに、物覚えの悪い自分にもわかりやすく指導してくれた。
リトはナルホドを連発し、8時近くなり司書が帰るように促すまで完全に引き込まれていた。
では、何がめんどくさいのか。それは勉強会2日目にまで遡る。

「わたしと二人きりで勉強してるって知られると、結城君いろいろと困るでしょ?///」
昼休み、突然唯にそう言われたのだ。
「あー、・・・いや、俺は・・・別に・・・」

とはいったものの、正直リトとしてもできれば知られたくはなかった。
教え方がうまいのももちろんだが、他の誰にも入ってきてほしくないほどに唯との勉強会は心地よかったのだ。
ララや春菜に対して負い目が全くないとは言えないのもまた事実ではあるが。

そうすると、ばれたら問題といえば問題である。
昨日はアニメに気を向かせることでララを帰らせることに成功したが、今日からはそうはいかない。
「だから、作戦を考えたわ」
「作戦?」

唯の作戦は次のようなものだった。
帰りのホームルームが終わったら唯はすぐに図書室に向かい、一つしかない学習室を確保する。
一方リトは友達の家で勉強するとララたちに説明し、一度学校を出る。
そして学校に人気がなくなるまで待ってから戻ってきて合流する。

「ちょっと大げさじゃないか?ばれたらばれたで、一緒に勉強すれば・・・」
そこまではしなくてもと思いリトは返したが、唯は無言のままだ。
頬を少し染めているが、リトから視線を外そうとはしない。
「結城君がそれでいいなら、別にいいけど・・・///」
口腔で溶けていくように小さくなっていく声。
いつものような、絶対に自分の意思を曲げない強い唯ではなかった。
ただ、そう言い終えた後、一瞬唯がとても寂しそうな表情をしたようにリトには見えた。
そしてその表情はリトの心からいつまでも離れなかった。
結局その日、6時間目終了直後にリトは作戦の決行を伝えたのだった。
(古手川、ひょっとして俺と二人きりがいいのかな///)
そんなことを考えていたリトはそこで唯の笑顔を期待していたのだが、
唯は表情を変えずに「ええ」と返してきただけだった。

ともかくリトはその日から作戦を決行し、自宅とは反対方向へ10分ほど歩いたところにある
小さな公園の土管の中で30~40分ほど時間を潰してから、周囲に気を払いながら学校へと戻ってくる。
火曜日からはじめ、金曜日の今日で4日目だ。
さすがにめんどくさくもなるが、今日でこんなことをすることもとりあえずはなくなるだろう。
そう考えるとそれが少し寂しく思えてしまい、リトはまた苦笑する。
「よしっ、今日も頑張りますか!」
リトは気持ちを盛り上げるために意図的に口に出すと図書室へと入っていった。

学習室では唯が準備万端といった様子で待っていた。
「遅い!まったく何やってるのよ、時間ないのに・・・」
いきなりやる気を挫く言われようだ。
(古手川サン、そりゃないんじゃ・・・)
と思っていると反論する間もなくルーズリーフが2枚差し出される。
「今日はこれからね。英語の小テスト、制限時間は1枚10分!」
「ち、ちょっと待て」
まだ筆箱も出してないっての。
「はじめっ!!」
リトは大慌てでシャープペンを取り出すと問題と格闘しはじめる。
小テストはもちろん唯のお手製だ。
1枚目が試験範囲の重要な単語と熟語の確認。2枚目は文法のチェックだ。
この勉強会でかなりレベルアップしたリトはほぼ詰まることなく問題を解いていく。
唯は時折リトの様子を確認しつつ、別のルーズリーフに文字を書き連ねている。
「1枚目終わった」
まだ7分程しか経っていない。
「きちんと見直しした?」
「オッケ」
「じゃあ、二枚目は今から10分ね」
「りょーかい!」
リトは再び整った文字列に意識を集中していく。
そして2枚目も制限時間に余裕を持って終了した。
「ふぃー」
充実感を感じながら長めに息を吐き出す。
手ごたえアリ、だ。
唯はさっそく採点を始めていた。
シュッ、シュッ、となるペンの音が心地よく感じる。
「凄いじゃない、結城君!!」
採点を終えた唯の声が弾む。
1枚目100点、2枚目90点。
わずか数日前に今のままなら赤点確実と唯に断言されたのだから、上出来といえる。
しかしリトは悔しそうだ。
「くっそー、全部あのカードにのってる問題だったのに・・・」

あのカードとは、土管に入っている間にも勉強できるようにと、唯が作ってくれた単語・文法カードのことだ。
唯は本当によく気がつくできた女の子だと、リトはつくづく感心した。
そして自分のために頑張ってくれている唯の為にもと思い、それこそ何度も見返して必死になって覚えたのである。
今日も土管の中できっちりと確認していただけに、余計に悔しい。
「でも、ちゃんと成果は出てるわ。何だかわたしも嬉しいな・・・」
そういって唯は口元を綻ばせる。
(っ!///)
リトはそれにドキドキしてしまう。

唯が見せているのは自然な表情だ。
だけどリトにとっては、それが特別なのだ。
今まで自分に向けられてきた表情は、どこか無理矢理なものだった。
それでも唯が美少女であることにリトは異論なかったが、
勉強会を始めて以来時折見せる自然な表情の破壊力は、これまでの比ではない。
どんどん唯に惹きつけられていく感じがしていた。

「さ、今日は世界史ね。覚えておくべきところを赤で書いて、カッコで囲ってあるから、
赤いシートを使って覚えてね。あ、分からないところは遠慮せず聞いていいから」
「お、おう・・・。サンキュ」
こんなコがなぜ自分にここまで親身になってくれるのか。
そしてそうしてくれることが、少し不安でもあった。

(古手川自身の勉強は大丈夫なのか?)

そうなのだ。
唯は毎日、前日の復習といっては小テストを作ってきてくれる。
さらに、覚えやすいようにカードを作ってくれたり、数学の公式をまとめたノートを作ってくれたりしている。
今日の世界史だって、相当な手間と時間がかかったはずだ。
それでいて図書室にいる間はリトに教えることを中心に考えてくれているので、
唯自身の勉強はそんなに進んでいないだろう。

「なあ、古手川」
「ん?どこかわからない?」
唯は嫌な顔一つせずすぐ反応してくれる。
「その・・・、大丈夫なのか?」
「?」
シャープペンを唇に軽く当て、キョトンとする唯。
(可愛い・・・じゃなくて!)
咳払いを一つ。

「自分の勉強。時間取れてるのか?」
リトは申し訳なさそうな顔でそう問う。
「・・・またそれ?」
「またって、大事なことだろ?」
唯はため息を吐くと苦笑いのような、バツの悪い表情になる。
リトは更に続ける。
「毎日俺のために、いろいろ作ってきてくれるのは凄く嬉しいんだ。
実際、自分で勉強するより格段にわかりやすいし、楽しいしさ。
でも、俺のために古手川が体調崩したり成績が悪くなったりするのは嫌なんだよ。
自分のこと、一番に考えてくれていいんだぜ?」
真摯な表情、嘘のない言葉。
普段はヌケているくせにこういうところがズルイと、唯は思う。
(結城君が心配してくれて嬉しい。でも・・・)

「大丈夫ったら大丈夫よ」
ついそっけなく返してしまう。

もちろんリトは納得していない。
唯がどういう性格か、リトだってそれなりには理解しているつもりだ。
「・・・」
無言の抗議。
すると唯が痺れを切らしたように今日始めてリトを睨み付けた。
「ちゃんと帰って勉強してるから平気なの!いいから早くナポレオンのことでも覚えなさい!///」
リトはまだ納得しかねている様子だったが、
そこまで言うなら、といった感じでホッチキスでとめられたルーズリーフに視線を戻す。
実際のところ、唯の睡眠時間は半分以下に減っていた。
8時頃までリトの勉強に付き合い、家に帰って食事をとればもう9時だ。
普段予習復習を始める時間が9時、終えるのが10時半から11時。
しかしさすがにテスト前だ。
予習復習に加え授業をしっかり聞いている唯だが、
完璧主義者でもあるため、最近は0時近くまで勉強している。
その後いつもならもう眠っている時間にお風呂に入り、リトへの「教材づくり」は1時頃からスタートする。
そして朝起きるのは決まって6時半。
だいたいの睡眠時間がご想像いただけるだろう。

しかし唯には不思議なほど疲れはなかった。
これまでも他人の何倍も規則正しく生きてきたが、これほど毎日が充実していると思えたことがあっただろうかと思うほどに。

一人になれば、リトのことばかりを考えてしまう。
それに付随して、ララのことや春菜のことも。
そうなると、とてもテスト勉強どころではなくなる。
今の唯にとっては、やるべきことに追われているくらいが丁度いいのだ。

ましてそのやるべきことが、好きな人の為ともなれば俄然やる気も出る。
リトは根が素直な分、打てば響く鐘のように教えたことをどんどん吸収してくれる。

(彼を今支えているのはララさんや西連寺さんではなく、わたし)
二人だけの秘密の時間を共有している感覚が、唯にはたまらなく嬉しかった。
笑顔とともに「ありがとう」を聞ければ、それだけで頑張れる。
リトに教えることは自身の復習にもなるし、唯にとって勉強会にマイナス面など一つもなかった。

リトは黙々と世界史の暗記に取り組んでいた。
わからないことがあったら聞けと言われているものの、ルーズリーフは分かりやすく色分けされており、
例によってごちゃごちゃしない程度に補足も書かれている。
細やかな心遣いはここでも健在で、質問する必要がないほどだった。

一段落ついたところでケータイで時刻を確認すると6時半だ。
どうやら2時間近くぶっ続けで暗記していたらしい。
この一週間、帰宅後も家で勉強しているうちに、集中力も高まってきているのかもしれない。
リトは座ったまま大きく両手を上げて伸びをすると、天井へと視線を向けたまま唯に声を掛ける。
「古手川、ちょっと休憩にしないか?」
「・・・」
反応がない。
今日は無視されるようなことをした覚えはないが・・・。
恐る恐る見ると、唯はどうやら机に突っ伏して眠ってしまったようだ。
いくら気力が充実していても、体力には限界というものがある。
さすがの唯も、自覚がないだけで疲れてはいるのだろう。

「はは・・・」
リトは柔らかく笑みを零す。
(自販機で温かいものでも買ってきてやるか)
席を立とうとすると、一枚の紙が目に入った。
身を乗り出すようにして確認してみる。

(・・・結城君ナルホドシート?なんだこりゃ?)
見ると今日までの日付の横にいくつかの正の字が並んでいる。
リトが一日に何度ナルホドと言ったかカウントしていたようだ。
(・・・こんなに声に出してたか?)
毎日正の字が2つ以上完成している。
つまり常に二桁ということだ。
唯がいつ寝てしまったのかはわからないが、今日もすでに正の字が一つ完成していた。
(何をしてるかと思えば・・・)
苦笑いのリトだが、そんな一面を可愛いなと思う。
知れば知るほどに、唯は普通の女の子だ。

そう、唯はリトにとって大切な女の子だ。
ただのクラスメートでも、口うるさい風紀委員でも、もはやない。
いつの間にか唯の事を恋愛対象としてみるようになっている自分がいた。
鼓動が速まっていくのを、妙に冷静に感じていた。
「ぅん・・・、結城くん・・・」
唯の安心しきったような寝言でリトの冷静さはあっという間に吹き飛ぶ。
気づけば無防備な寝顔が目の前にあった。

(俺のために毎日遅くまで頑張ってくれてるんだよな。
そしてお前はそれを、恩着せがましく言ったりしない。
絶対に隠し通そうと、バレバレな嘘をつくんだ)

心配すれば何でもないとそっけない態度をとって。
そのくせ自分は誰よりも周囲に気を使って。
俺が素直に喜ぶと少し恥ずかしそうにそっぽを向いて。
それをからかうとムキになって怒って。

確かに他人に厳しい面はあるかもしれない。でもそれ以上に自分に厳しくて、そして凄く優しい女の子なんだ・・・

唯に対する愛しさが、爆発的にこみ上げてくる。
すぐにでも抱きしめたい。  キスしたい・・・。

頭の片隅でわずかに残った理知的な自分が、やめろと警報を鳴らしている。
唯の意思が存在しえないキス。
しかしリトは、もう止まれなかった。

口紅などほとんど塗っていないだろうに、その唇は艶やかで、鮮やかなピンク色だった。
リトは蓮華の花に誘われたミツバチのように、唯に顔を近づけていった。

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